
交通事故の被害に遭い、頭を強く打ち付けることによって、「遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)」という障害を引き起こす可能性があります。遷延性意識障害とは一般的には植物状態と呼ばれる症状のことで、後遺障害等級認定を受けることでさまざまな補償金や賠償金を受け取れる可能性があります。
しかし、適切な後遺障害等級認定を受けるために必要な書類には医学的資料もあり、申請をしたことがない方が行うには複雑な手続きとなります。
今回は、遷延性意識障害(植物状態)の原因や症状などについてご紹介し、交通事故でご家族が遷延性意識障害になってしまった場合に認定されうる後遺障害等級や請求できる損害賠償金、注意点などについて解説します。専門家である弁護士のサポートを受け、治療や介護に安心して専念できる状態を整えましょう。
遷延性意識障害(植物状態)の定義
遷延性意識障害(植物状態)とは、どのような原因と症状の障害なのでしょうか。脳死状態との違いも見ていきましょう。
原因
遷延性意識障害は、頭部に強い衝撃を受けた場合に、衝撃による圧力で大脳の広範囲が損傷することが原因で発症します。具体的には、頭部への外傷によって脳挫傷、脳出血、クモ膜下出血、びまん性軸索(じくさく)損傷が生じることで、遷延性意識障害に至る可能性があります。
交通事故に遭った際には、事故によって頭部に直接強い衝撃を受けるケースや、転倒などによって頭部を地面などに強く打ち付けるケースなどがあり、いずれも脳に大きな圧力が加わる可能性があります。交通事故によって頭部に強い衝撃を受けた場合には、脳にどのような影響があるか素人では判断できません。すぐに病院で検査を受けましょう。
症状
日本脳神経外科学会によると、遷延性意識障害とは、下記の6項目に当てはまる状態が3ヶ月以上継続して見られるケースのことを言います。
- 自力で移動することができない
- 自力で食事を摂ることができない
- 便や尿を失禁してしまう
- 声を出しても意味のある発語ができない
- 「目を開け」「手を握れ」などの簡単な命令には応じることもあるが、それ以上の意志疎通はできない
- 眼球はかろうじて物を追うこともあるが、認識はできない
遷延性意識障害でこれ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと医師に診断され、症状固定となった場合、入院を継続することが難しい場合もあります。そのような場合には在宅介護や施設入所を検討する必要があり、酸素吸入や痰の吸引、床ずれ防止など、24時間体制の常時介護が求められます。
脳死との違い
遷延性意識障害(植物状態)は脳死とは異なる状態です。脳死とは脳幹を含む脳全体の働きが失われた状態で、意識や自発呼吸などの生命維持に不可欠な機能がなくなり、回復の可能性がない状態を指します。人工呼吸器などの延命装置をやめると、数日以内に心臓が停止して死に至ります。
一方、遷延性意識障害(植物状態)は、自発的な呼吸ができ、睡眠と覚醒のサイクルも保持しており、脳幹などの生命維持に必要な機能は失われていない状態です。リハビリなどによってある程度まで回復する可能性があります。
遷延性意識障害(植物状態)の後遺障害等級は何級?

交通事故によって遷延性意識障害(植物状態)となった場合、後遺障害等級認定を申請したら何級に認定される可能性があるのでしょうか。申請の際に必要となる書類についても解説します。
認定されうる後遺障害等級
遷延性意識障害で常に介護を要する場合、最も重い等級である後遺障害1級1号(要介護)が認定される可能性があります。1級の脳損傷による身体性機能障害に関する認定基準は以下の通りです。
- 高度の四肢麻痺が認められるもの
- 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高度の片麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
この場合の麻痺とは、腕や足の運動性や支持性がほとんど失われ、基本動作(歩く、立ち上がる、物を持ち上げて移動させるなど)ができない状態と定義されています。遷延性意識障害は、後遺障害1級1号の認定対象となる後遺症の典型例です。
申請に必要な書類
後遺障害等級認定で適正な等級を受けるには、徹底的に検査をし、適切な書類を揃えて申請することが重要です。必要となる書類はケースによっても異なる場合がありますが、以下のような資料を用意しましょう。
- 高次CT画像やMRI画像などの医学的資料
- 医師が診察して作成した後遺障害診断書
- 支払請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 印鑑証明書
適切な資料を用意しなければ、適正な後遺障害の等級認定がされない場合もあります。医師だけでなく専門家である弁護士にも依頼して、必要書類を揃えましょう。
遷延性意識障害(植物状態)で請求できる損害賠償金
遷延性意識障害になった場合に請求できる損害賠償金について解説します。後遺障害等級認定を受けた場合にしか請求できない賠償金もあるので、確認していきましょう。
治療費
治療・通院のためにかかった必要かつ相当な実費のことで、付添が必要だった場合には付添人の交通費も請求することができます。
介護費用
遷延性意識障害が症状固定となった場合、生涯にわたって要介護者となる可能性もあり、加害者に対して介護に必要な費用を請求することができます。
介護費用の項目には、通院や入院に付き添いが必要な場合には付添看護費、介護施設を利用する場合には施設費用、自宅介護をする場合には近親者介護費用などがあります。おむつやカテーテルなど、介護のためにかかった必要かつ相当な実費を雑費として請求することもできます。また、重度の後遺障害のため自宅や車の改造が必要になった場合には、自宅改造費や車改造費、引っ越し費用なども請求可能です。
慰謝料
交通事故による慰謝料には「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」の2種類があります。入通院慰謝料は、医療機関への入院や通院による精神的な苦痛に対する慰謝料のことです。
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級認定を受けた場合に請求できる賠償金です。認定された後遺障害等級によって受け取れる金額は異なり、1級1号に認定された場合、後遺障害慰謝料の目安は「自賠責基準で1,650万円・弁護士基準で2,800万円」となっています。自賠責保険基準は法律で定められた最低限の賠償額、弁護士基準は裁判になった場合の賠償額の相場です。弁護士基準は被害者が負った精神的苦痛に対する適切な賠償額とされており、弁護士に依頼することでより高額な後遺障害慰謝料を請求できる可能性があります。
逸失利益
逸失利益(いっしつりえき)も、後遺障害等級の認定を受けた場合に請求できる賠償金です。交通事故に遭わなければ、将来にわたって得られたものと考えられる収入などの利益のことです。
遷延性意識障害で後遺障害等級1級に認定された場合には、100%の割合で労働能力を失うものと考えられるため、逸失利益の請求金額はかなり高額となる可能性があります。
遷延性意識障害(植物状態)への賠償金請求に関する注意点

交通事故の被害者が遷延性意識障害になった場合、損害賠償金の請求について注意点があります。将来にわたって必要となる医療費や介護費用が不足しないよう、適正な賠償金を獲得するためにも、注意点を確認しておきましょう。
賠償金請求には成年後見人の選任が必要
賠償額請求をする際には、遷延性意識障害となった被害者本人に代わって、必要な契約を締結したり財産を管理したりする「成年後見人」を選任し、代理で手続きを行ってもらう必要があります。
成年後見人を選任するためには、家庭裁判所に「成年後見人選任の申立て」を行います。家族や親族が成年後見人となる場合もありますが、弁護士や司法書士などの専門家や、市民後見人が成年後見人となる場合もあります。
成年後見人の選任には、成年後見開始の審判の申立費用や成年後見人に支払う報酬金などが発生しますが、必要かつ相当な範囲であれば加害者に請求することが可能です。
減額や定期賠償を求められる可能性もある
遷延性意識障害になった場合には、将来にわたって必要となる介護費用や逸失利益も請求することができますが、これらは被害者が生きている限り必要となる費用です。そのため、余命の長さが請求金額に影響します。一般的に、遷延性意識障害患者の平均余命は短い傾向にあり、これを根拠に加害者側の保険会社から賠償金の減額を求められるケースがあります。そのような場合には、保険会社からの提示にその場で応じず、弁護士に相談することがおすすめです。
また、加害者側から損害賠償金を長期間にわたって分割払いする「定期賠償」を提案されるケースもあります。定期賠償を受け入れるべきかはケースによって異なりますが、受け入れる場合、支払いの途中で加害者側に財産や収入がなくなり、スムーズな支払いを受けられないリスクがあることに注意しておきましょう。
賠償金を受け取るまでにはさまざまなリスクが考えられます。交通事故に遭ったら、なるべく早い段階で弁護士に相談しておくと安心です。
遷延性意識障害(植物状態)で弁護士に相談するメリット
遷延性意識障害は、被害者やご家族のその後の生活に大きな影響を与えます。後遺障害等級の中でも最も重い等級が認定される可能性が高いため、請求できる損害賠償金は高額になることが予想されます。それに対して、加害者側の保険会社が支払い額を減らそうとして、示談交渉が難航するケースも多くあります。
また、ご自身で後遺障害等級認定申請を行った場合、資料が不十分で相場よりも低い後遺障害等級認定や賠償金しか受け取れないケースも少なくありません。
そのような事態を防ぐためにも、ご家族や親族の方が交通事故に遭われた場合には、なるべく早い段階で弁護士にご相談ください。弁護士に依頼することで、適切な後遺障害等級認定を受けるためにサポートしてもらうことができ、弁護士基準で算定した適切な慰謝料を請求することも可能です。成年後見人選任などの手続きも任せることができ、治療や介護に安心して専念することができるようになります。
半田みなと法律事務所では、半田市を中心に知多半島全域で交通事故をめぐるトラブルについてのご相談を多くいただいており、解決事例も豊富です。弁護士による的確な主張や資料収集によって後遺障害等級が上がったケースや、任意保険非加入の加害者から4400万円を獲得できたケースもあり、安心して治療や介護ができる環境作りをサポートさせていただきます。
交通事故をめぐるトラブルで不安を抱えていらっしゃる方にとって少しでもお力になれればという思いで、初回30~60分の無料法律相談も実施しております。ぜひお気軽にご相談ください。
交通事故・労働災害に遭い、辛い出来事を体験された中でも、弁護士に相談しようと一歩を踏み出した方が、こちらの記事を読んで頂けていると思います。私も数年前に、親族を事故で亡くしました。大きな驚きと深い悲しみが今でも残っております。一歩を踏み出したあなたの想いを、是非受け止めさせてください。







