【労働災害に遭われた方への補償】
労働者は、使用者(経営者)に労務を提供することにより、使用者からその対価として賃金を得て生活をしています。そのため、もし労働者がケガをしたり病気にかかったりして、十分な賃金を得ることができなくなると、治療を受けることも生活することもできなくなります。さらに、これらが原因で身体に障害が残ったり、死亡したりすると、その労働者や家族の生活が成り立たなくなってしまいます。
そこで、労働基準法は、そのような事態にならないために、第8章「災害補償」において、業務上の災害が発生した場合に、使用者に損失を補償するよう義務付けています。つまり、業務上発生した怪我や病気については、使用者(経営者)の責任において補償を行うのが大原則とされているのです。しかし、仮に補償できる資力があっても、使用者にとって高額な支払いをしなければならないとなると、使用者の資金的なダメージは大きくなります。そのため、労働者への補償により資金がなくなってしまい事業活動が困難になることも考えられます。使用者に支払う能力がなければ、補償が受けられなくなってしまいます。こうした事態を防止し、被災した労働者が確実に補償を受けられるよう、業務中や通勤中の怪我や病気については、相互扶助の考え方に基づく「労災保険」という制度が設けられています
【会社への損害賠償請求】
◆他の従業員の不注意によって怪我をした場合「不法行為責任」
会社は、会社の従業員が業務中の不注意によって別の従業員(被害者)に怪我をさせた場合、使用者責任(民法715条)に基づいて、会社も被害者に対して賠償責任を負うことになっています。これは、会社は従業員を使用して利益を受けており、従業員の業務上の行為によって他人に損害を与えた場合には損失(賠償責任)を負うのが公平という価値判断に基づく責任です。そのため、この場合は使用者責任に基づいて会社に対して損害賠償を求めることになります。従業員が怪我をさせたことが明確なケースでは、比較的、会社も話し合いの段階から責任を認める傾向にあります
『不法行為責任』
上記のような場合、従業員個人の資力では賠償金を支払い切れないことがほとんどで、被災者は使用者(会社、経営者)に対して責任を追及することになります。使用者(会社、経営者)の損害賠償責任は、事故の原因が企業の組織活動そのものを原因とするような場合や、労働現場の建物・設備に危険があった場合に認められることがあります。これを「使用者責任」(民法715条)と呼び、使用者(会社、経営者)に対して損害賠償を行う際の根拠となります。被災者は、使用者責任に基づいて使用者に対して損害賠償を請求していくことになり、労災事故の現場における「責任」は、使用者に対して追及され、損害賠償が行われることがほとんどです。
この使用者責任を含め、労災に関して使用者に責任追及するときの法的な根拠となる不法行為責任として代表的なものとして以下の5種類があります。
・一般不法行為責任(民法709条)
・使用者責任(民法715条1項)
・土地の工作物責任(民法717条)
・注文者の責任(民法716条但書)
・運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)
◆自分一人での作業中に怪我をした「債務不履行責任」
「自分一人で作業中に怪我をした場合」は、会社に対して「安全配慮義務違反」に基づく損害賠償請求をすることになります。自分一人で作業中に怪我をした場合は、他の従業員の不注意によって怪我をした場合と比べると、会社が「自損事故であるため会社には責任がない」と請求を拒否するケースが多くみられます。その理由は、安全配慮義務違反の内容が定型的ではなく、分かりにくく不明確だからです。
交通事故のように、損害賠償の責任のありかが加害者にあると明確であればよいのですが、安全配慮義務違反については、具体的にどのような義務があり、何をどうしたら違反になるのかという内容が不明確なため、会社も十分に認識していないことが多いようです。また、単独で発生した労災事故については被災者にも一定の過失があることが多いため、会社としては「こんな事故は今まで起きたことがなく、被災者の過失によって生じた事故であり、会社には責任がない」と考えてしまうのです。
『安全配慮義務違反』
安全配慮義務は、業種、作業内容、作業環境、被災者の地位や経験、当時の技術水準など様々な要素を総合的に考慮してその内容が決まります。会社に対して安全配慮義務違反を問えるかどうかを個別に判断するため、具体的な作業内容や被災状況を詳細に確認することが重要です。安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は10年となっています。
使用者(会社、経営者)に、労働基準法や労働安全衛生法あるいは関係法令の違反があり、法令違反によって労災事故が起きた場合、使用者に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を問える可能性は高まります。また、重大な労災事故が発生したことで労働基準監督署が災害調査を行い、その結果、会社に法令違反があるとして是正勧告などを受けた場合や、警察・検察が捜査をして会社や担当者が刑事処分を受けた場合、会社の違反を認定する証拠がある事案と評価でき、会社の安全配慮義務違反をより問いやすくなります。
◆後遺障害等級認定
労災によって負ったケガの治療をしたににもかかわらず完治せず、身体に一定の障害が残っている場合、「後遺障害」の等級認定を求めることになります。後遺障害は、症状や労働能力の喪失の程度によって14段階で区分されており、最も重篤な第1級から、比較的軽度な第14級まで等級が定められています。認定される等級によって支払われる労災保険金や損害賠償金の額は大きく変わり、等級がひとつ違うだけで数百万円から数千万円まで差がつくこともあります。そのため、実際の症状に合った適正な等級の認定を得ることが、適正な賠償金を得る上で非常に重要になります。
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